新北市瑞芳区

台北駅から九份は距離にして約40キロ。移動手段としては、バスとかタクシーとか列車とか、いろいろある。でも、移動時間をあまりかけたくなかったのと、大金使うのがバカバカしいので、僕たちは台湾の国鉄台湾鉄路九份近くの瑞芳(ルイファン)駅へ向かうことにした。

日本の方が作った路線図を見ると、瑞芳駅は、台北駅から11駅目だ。所要時間は各駅停車で50分、快速で40分程度とあまり変わりがない。地下の改札横、券売機前の親切なおじさんにどっちが早いか聞くと、快速(自強号)の券売機へ連れて行くので、そのまま指定席のチケットを購入した。発車時間まで1時間ほどあり、間違いなく宿のチェックイン時間に遅れる。宿に日本語(!)でメールをしておく。

列車はJRの特急のような座席で、窓からは連日の雨に降られる台北のまち並みを見ることができた。土地が狭いからか建物は上へ、上へと積み重ねられ、車の排気ガスで壁はところどころが黒く煤けている。おまけに空は分厚い雨雲が太陽の光を遮っているものだから、ゴチャッとした東京や大阪の鉄道沿いを3割ほど暗くさせたような雰囲気に包まれていた。でもそこが異国情緒ともいえ、外国へ来たという実感が伴う。

瑞芳駅の改札を出ると、目の前には40年ぐらい前の、日本の地方都市の駅前みたいな風景が広がり、どこか懐かしさを感じた。

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どこか懐かしい、瑞芳駅前の風景


駅を出て左へ曲がり、商店街を抜け、基隆川を渡ると2日目の宿、井上天花に着く。コンビニエンスストア向かいの入り口と目される場所へ行くと、宿のスタッフ2人が待っていて、ホテルまで案内してくれた。基隆川横の階段を降りてすぐ左手がホテルの入り口だった。なるほど、初めて来た人は絶対にたどり着けない。建物が密集していて、ホテルが外から見えないからだ。

ホテルは相当古い建物だけど、リノベーションされていて、とてもきれいで洗練されている。部屋に荷物を置いて、さて、九份へどう行くのかとスタッフに尋ねると、駅前からタクシーがあるという。でも土砂降りの上、また駅まで戻るのもしんどいなと思っていたら、「私が送りましょう」と宿の多分オーナーが送ってくれることになった。感謝感激。時間は夕方の5時を過ぎたところ。宿から九份老街までは車で10分ぐらいで、着くころには街明かりが見えた。

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夜の帳が降りる九份のまち

千と千尋」の風景を味わいたいなら、それっぽいので阿妹茶樓へ行くと良い。警察の建物の右横から階段を少し登ると左手にある。でも僕らは違う、セブンイレブン横の階段から登ってしまったので、迷って結局そこへはたどり着けなかった。雨の中、多くの日本人と一緒に階段を登って降りた。日本語ばかり聞こえてきた。まるで日本のどこかの観光地にいるように。

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観光客をながめる土産物屋の犬


雨で靴下は濡れるし、奥様の体調は最悪だった。でも僕はせっかく日本から2千キロ離れた九份へ来たんだし、次にいつ来れるかわからないから、阿妹茶樓に行きたかった。でもこれ以上ここでとどまると、人でなしの鬼畜生になりそうだったので、近くのお茶屋に入って体を温め、宿へ戻ることにした。

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日本人だらけの九份

最悪のタクシー事情

お茶屋を出たとき、時間は夜の8時ごろになっていた。バス停で時刻表を見ると瑞芳駅行きのバスはもう終わっている。そこでタクシーをつかまえようとしたら、まさかの乗車拒否にあった。やっとの思いでタクシーに乗って、行き先を告げると、そのドライバーはカーナビで行き先を検索したあと、「Sorry」と言って僕らを少し下の別のタクシー乗り場で降ろしたのだ。新北市が定めるタクシー料金は、九份から瑞芳駅まで1台205元。プロ意識の乏しい金の亡者たちは、稼ぎの良い台北駅までしか行こうとしないのだ。全体的に台湾が好印象だったので、これはとても残念なマイナスポイントだけれど、日本でこういうことは絶対に起きない。とはいえ、京都で近くの場所へタクシー移動したら、運転手に嫌味を言われたことはある。なおもタクシー乗り場でごねていると(奥様は瑞芳〈ルイファン〉と連呼)、根負けしたのか1台が送ってくれることになった。でも喜びもつかの間、そのドライバーはカーブだらけの下り道を、対向車線にはみ出しながら、とんでもないスピードで走り出したのだ。まるでダウンヒル競技のように。僕らはシートベルトで身体を固定して、窓の上のグリップを懸命ににぎった。対向車が来ませんようにと祈った。

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なんとか瑞芳に生還

 

瑞芳駅まで戻ってきたら、商店街の夜市に行きたかったが、奥様が体調不良のため、テイクアウトで宿で食べることにした。豆漿店で小籠包と豆乳を注文したあと、ケンタッキーフライドチキンみたいな店に入って驚く。店主の男性が、「私、日本語できます」と流ちょうに日本語を話すのだ。ユーチューブで言葉を覚えたけど、まだ日本へ行ったことがないという。「日本で十分暮らせるぐらい上手ですよ」と言うと、その男性は目を細めて喜び、「これ、おまけです」と、注文した骨なしチキンとは別に、おまけとは思えない量のチキンクリスプをくれた。タクシー事件を帳消しにできるぐらい、うれしい出来事だった。

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瑞芳駅そば。日本語ペラペラの店

 宿に戻って、風呂に入って、共通のキッチンで小籠包を食べていると、別の宿泊客が到着した。午後10時過ぎ。50代後半ぐらいのフランスから来た一人旅の男性だった。彼は僕に、キッチンにどんな設備があるか訪ねたあと、夜市へと出掛けていった。

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瑞芳駅の宿「井上天花」の充実した共通キッチン