まさかの香港入国

ロンドンの風景を1つ1つ目に焼き付けながら、というかスマホで窓の外を撮りながら、テムズリンクでガトウィック空港へ向かう。どこでも集合煙筒を持つ長屋が見える。英国はつくづく長屋の好きな国だと思う。郊外の駅のホームにはアートっぽくない即物的なスプレーの落書きがある。どこの国も似たようなものだと感じるのは、歳をとった証拠だろうか。

空港に着いて出国手続きをする。入国に比べると、拍子抜けするぐらい簡単に終わる。すんなり出て行ってもらおうということらしい。出国カウンターの外側には免税店がずらっと並んでいるので、個人的にお世話になった方へのお土産を物色することにする。スコッチウイスキーを買いたいと思っていたのだが、スペイサイド、ハイランド、ローランド、アイラなどと地域別にボトルが並べられていて、どれも結構なお値段がする。日本で買った方が安いぐらいで、しかもブレンドものはよくわからない。しかしせっかくだからと、味が想像できるけどまだ飲んだことのない、アイラのシングルモルト、ラガヴリン16年ものを買う。ちなみにロンドンとアイラ島は遠く離れていて、東京で淡路島土産を買うようなものだが、このさい気にしないことにする。お値段約6000円也。よせばいいのに今、アマゾンで調べたら5759円で送料無料とあった。たいていのものは日本で安く手に入るのだ。

ここから飛行機は約13時間かけて香港空港へ。さらば英国、また来るよ。

香港空港に着いて、新千歳行きの飛行機に乗り換える・・・前に、持ち物検査が待っていた。涼しい顔で通ろうとしたら、係員が僕を呼び止めた。手に下げた土産物=『ラガヴリン16年』を指さして、機内に持ち込めないと言う。ここで飲み干すか捨てろというのだ。そんなバカな。アルコール度数43度もある、700CCのウイスキーをこの場で飲み干せるわけないし、6000円もしたのに捨てるわけにいかない。片言の英語と身振り手振りでごね続けると、たまりかねて別の係員を紹介してくれた。その人によると、持ち込み荷物ではダメだけど、預け荷物なら大丈夫だという。ところがキャセイパシフィックのカウンターは入国審査の先。つまり、どういうことかというと、一度香港に入国して、カウンターでウイスキーを預けて、今度は香港を出国するという、気の遠くなるような手続きが必要になるということだ。

乗り換えの時間まで1時間ほど。入国審査を見ると人の列がとぐろを巻いている。うーん無理かなと思っていた矢先、奥さまが別の係員に事情を話していて、順番を飛ばして手続きさせてくれることになった。入国の目的も聞かれずパスポートにスタンプだけポンと押され、ほぼ素通りで香港入国。でも入国を楽しむ余裕はなく、とにかく広い香港空港で迷う。やっと見つけたキャセイのカウンターにも人が並んでいる。乗り換えまであと30分。日本語の通じるメガネをかけたスタッフが、僕の必死の顔を見て、優先して続きしてくれた。続いてダッシュで出国審査へ。不機嫌そうな女性審査官が僕の顔とパスポートを交互に眺め、一言も言わずにスタンプを押した。初めての香港入国は約10分だった。

休む間もなく乗り換え便のゲートを探す。ずっと走り続けて汗だくだ。しかし新千歳行きのゲートははるか遠い。走って間に合う距離ではない。きょう何度目になるか、香港空港の広大さを呪った。そしてあきらめかけた時、空港内を結ぶシャトルトレイン乗り場があることに気付いた。階段を下り、急いで列車に飛び乗ってぎりぎりゲートに到着した。

乗り換え便のゲートで待っていた妻は「大人だし、間に合わなければ置いていくってお義母さんに電話してたんだ」と冷ややかに言った。直行便なら問題なかったわけだが、乗り換え便をご利用の際は、土産物にお気を付けください。