地方自治、ならぬ、台湾は民主主義の学校だった

誰でもそうだろうけど、一度日本を飛び出すと、海外へ行くハードルが一気に下がる。言葉が通じなければどうしよう、などという心配は初めだけ。通じなくても何とかなることが分かれば、海外旅行も国内旅行も大して変わらず、単純に日程と予算との相談だ。僕らは、今年3月、5カ月遅れの夏休みを取って、台湾へ行くことになった。

 

台湾は、下関条約で清国から割譲された1895年から、第二次世界大戦終結する1945年まで、日本の統治下にあった。皇民化運動や抗日運動で多くの犠牲者を出した一方で、経済やインフラなどの基盤整備を日本は行ったという。勉強不足で詳しくは分からないが、台湾の人たちは往々にして対日感情が良いらしい。日本人も毎年190万人が台湾を訪れる。二国間の国民感情なんて、政府が作り出した幻でしかないけれど、それでも少しは歓迎されたいと思うのが人情というもの。

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与那国島から100キロちょっと西側の台湾島

台湾は日本最西端の与那国島から距離にして100キロちょっとで、台湾島の北は亜熱帯、南は熱帯気候に属する。ようは暑そうな場所なんだけど、僕らが滞在する3月前半の3泊4日、台北の天気はずっと雨の予報だった。靴に防水スプレーをしつこくかけ、ナイロンやゴアテックスの雨合羽を用意したが、台湾の雨はそんなに甘くなかった。

 

気の遠くなるような出国手続きを経れば、新千歳空港から台北の桃園空港までは飛行機で4時間と少し。釧路‐札幌間の特急の移動時間ぐらいだ。エバー航空の機内で新作の映画を見ながら、機内食などをつまんでいると、あっという間に着陸態勢になる。ヨーロッパなんかに比べると本当に近い。着陸時間は午後7時をまわったところ。真っ暗な外では、やはりというかなんというか、滑走路が雨で黒光りしていた。桃園空港第2ターミナルの入国審査を出たら、やることがいくつかあった。1つは現金を両替えすること。台湾も日本と同じでカード決済社会ではないので、飲み食いお買いものとあらゆる決済に現金が必要なのだ。続いて、携帯のプリペイドSIMカード。事前に十分な下調べもないまま台湾へ来てしまったし、調べるにしても重い「地球の歩き方」は持ち歩きたくなかった。奥様の携帯はSIMフリーなので、ネットで予約していた中華電信の4GLTE5日間通話少々データ通信無制限のSIMを購入する。300元だから、2019年3月の為替レートだと1000円少々とものすごく安い。これらをこなしてやっと台北市内への移動となる。

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MTRの桃園空港第2ターミナル駅。飛び込み防止のゲートを完備

地下鉄のMTR桃園空港線の改札窓口で、駅員にスイカのような「悠遊カード」(EasyCard)を購入する。デポジットが100元に、チャージが500元の合わせて600元、を2人分。MTRの第2ターミナル駅から30分ほどで台北駅に到着する。台北駅から宿のある西門駅までは2駅なのだけど、MTR桃園空港線台北駅と、西門駅に通じるMTR山新店線の台北駅は離れている上に、遠ざかってしまうため、より近いMTR北門駅へ地下で移動することにした。

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地下鉄で居眠りができるのは安全な証拠

 

西門駅を地上に出ると、H&Mやエアージョーダンの看板が光り輝く、台北の渋谷と呼ばれる若者のまちが広がっていた。雨の中、新しさと古さが織り交ざった、どこか懐かしい商店街のアーケードを5分ほど歩いて、初日の宿となるチョウホテル(町記憶旅店)にたどり着いた。時間は午後9時をまわっていた。ホテル入り口の古めかしい木枠のガラス戸は、実は自動ドアで、古いビルをリノベーションしたセンスの良い建物だった。親切なホテルのスタッフに周辺の観光スポットを教えてもらい、部屋へ荷物を置きに行く。ダブルベッドとシングルベッドがあって、ガラスドアの向こうにはトイレとシャワー室がある。ドアにはトイレの絵が描かれ、“I don't eat paper”と書かれていた。

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知ってはいたけれど、トイレにトイレットペーパーを流さない、という衝撃的な台湾の常識に、しばらく放心する。

 

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眠らない西門。ちょっと夜のまちへ出てみようと、ホテルから近くの24時間営業のスーパーへ向かう。頂好Welcome(長沙店)という名のスーパーは、ビルの階段を降りた地下にあった。飲み物やカップラーメンや果物、洗剤にティッシュペーパーにひととおりのものがそろっていた。そこで驚いたのは周りの客がほぼ日本人だったことだ。長年日本で暮らしていると、みな似たようなアジア人顔の中でも日本人が見分けられる。そして次の瞬間には日本語が聞こえてきて、やはりなと思う。そこで60元の8個入りのパイナップルケーキを買う。200円ちょっとと驚きの安さだが、ケーキ部分がショートブレッドのようでおいしい。これで十分ではないかと思いながら、台湾初日の夜は更けていくのだった。